2003年6月10日(火)
【道州制を考える その1・青森県】

                    《報告書》

 5月27日、28日の2日間にわたり、「岡山県政を考える会」として、青森県(青森市)、岩手県(盛岡市)を訪ね、2期自民党議員4名で、道州制をめぐる問題、特に、北東北広域政策研究会等の調査を行った。

 道州制は、次代の議論であるが、地方制度調査会の動きも相俟って、日本の国のかたちそのものの話である。
 中四国州をうたう岡山県は、「21世紀の地方自治を考える懇談会」の報告に基づき、「道州制プロジェクトチーム」が発足してるが、全国で、一番先んじているのが、北東北広域政策研究会の動きである。
 中四国州の実現可能性を含めて、これからの県政の一助になればと考えた調査である。


【青森県】

 来訪前日に、東北地方に大きな地震があり、盛岡を中心に、新幹線がストップ。それに加えて、青森県にとっては、住宅供給公社14億円横領事件の余韻覚めやらぬ中、現職知事が、セクハラ問題で辞任。たいへんに申し訳ないような時期の調査になった。
 ちなみに、不信任決議案は辛うじて否決されたが、辞職勧告決議案が可決されたのは、3月の県議会定例会であり、知事選挙は、6月12日告示というタイミングであった。


(青森県の根本施策)

 青森県は、結果として3期選挙直後に退陣した前木村知事が、政策構想「ニューフロンティア21あおもり」を発展させ、「新青森県長期総合プラン」を策定「ニュー・ルネサンス−人間性復活−」をその基本理念に掲げ、農林水産業を軸とした福祉日本一の青森県を県政が目指す中長期的課題として位置づけた。

 文化観光立県、スポーツ立県、ファッション県、さらには子供の文化をはぐくむ行政を県政の中心に据えた各種施策は、全国にも、青森県を発信したが、同時に、青森空港の3000m化、津軽海峡構想といった公共事業・箱モノ偏重傾向、また、国際視点もあってのアジア冬季競技大会の経費膨張問題等、県財政は、悪化の一途をたどっていたのも事実である。

 例えば、国土の均衡ある発展、多軸型国土軸構想が、我が国の国土開発の基本理念に沿ったものであるとして、津軽海峡大橋構想がある。
 今の橋梁技術が、さらに発展し、我が国経済の活性化にも資する21世紀の国土政策のかなめとなるプロジェクトであると考えているようであるが、瀬戸大橋のことを思うにつけ、難しい構想ではある。

 一方、津軽には、経済特区として、生命科学活用食料特区などが掲げられ、おりしも、昭和47年の盛岡以北の基本計画決定から30年もの長い歳月を経て、長年の悲願であった東北新幹線八戸駅が昨冬開業。新幹線八戸−新青森間のフル規格による着工決定したものの青森新幹線は、あと12−3年かかるということではあるが、八戸までで、観光客1.5倍に伸びたそうである。


(道州制は論理的帰結)

 ところで、まず前提として、道州制については、これまで、関西経済連合会、九州経済同友会、日本青年会議所などの経済団体をはじめ、自民党や民主党において様々な形での具体的な提言がなされている。

 昨年の第27次地方制度調査会の中の小委員会でも道州制の検討に入った。その多くは、現行の府県を廃止して全国を数ブロックに分け道州を設置するというものである。

 しかし、国の動きが始まる前から、北東北三県の歴史、地理・文化的なつながりや広域連携の実績、さらには少子社会、国際視点、市町村合併進展等を踏まえたとき、北東北三県による「合体」が、実態的な選択からいって当然の流れとなっていくものと前青森県知事は考えていた。

 最初は、木村知事就任のとき、青森・岩手・秋田県、東北一体の中で、三県合体、市町村合併将来見越して知事サミットが提唱され(資料1、2参照)、これは昨年度まで、続いていた(今年度不明)。

 特に、青森、岩手、秋田の北東北三県は地政学的にも一致している部分が多く、経済・社会構造基盤も似通っており、あるいはまた独自性もあり、似通っている基盤の「合体」、あるいは独自性の「合体」によって、人口構造、財政規模等を考えたときのスケールメリットを図るというものである。

 なお、これが、可能であったのは、ひとつには、全員が、当時、新進党の知事であったからだそうで、そもそもこういう協力体制があったのだ、ということは、重要である。
 なお、「合体」は、対等な関係で一緒になるという法律用語である。


 こうして、国際的視点、地方分権の流れの中で、「北の時代」を切り開いていくべきであるとして、IT革命、廃棄物の問題、森と川と海の全国初の条例など、成果も生まれ、青森、岩手、秋田の三県が一つになる「北東北三県の合体」が実態的な選択からいって当然の流れになると考えられてはいるようである。

 また、知事サミットが、3県を一巡してから、平成13年度からは、国際的にも日本に貢献できる自立力を高めていく「北の時代」を目指して、北海道と連携を深め、「北海道・北東北知事サミット」として開催されている。

 こうして、東北各県や北海道は、これまでの広域連携の実績を踏まえ、より効果的・効率的仕組みの構築という点から、東北は一つだというその思いで、東北連合、及び北東北三県と北海道の連合という時代、「北の時代」を切り開いて、国際視点に立ち、こうした連合の過程を踏まえた上で、東北全県による「合体」へと進み、また、他の地域でもそのような動きとなっていくならば、最終的にはいわゆる「道州制」という姿も、考えられる、ということである。

 すなわち、少なくとも、北東北3県合体には、実践と論理的帰結があるのである。少なくとも、まず道州制ありきではない。
 ちなみに、青森・岩手・秋田県が、「合体」して、490万人。北海道だけで500万を越え、東北連合なら1600万人を越える。



(「北の時代」の理念)

 全国知事会が自治制度研究会の報告書で、地方分権から都道府県の役割発表しているが、そこには、地方分権一括法が成立してから、地方と国の関係が対等、平等になり、今までは県というのは国の出先機関的性格があったが、それを払拭して独立した完全自治体になるという思いがある。

 その中では、都道府県の将来像として、広域的課題への対応、市町村に対する支援、補完、地域の総合的なプロデューサー、コーディネーターという役割を持っているとしている。

 市町村に対する支援、補完ということになれば、後述の市町村合併の話も関係するが、広域的課題、ある意味で、地域の夢、ビジョン、平たく言えば、ロマンというものが必要である。

 「北の時代」、北海道、東北が一体となった新たな文化・経済圏形成を目指す「津軽海峡軸構想」は、東北州の行き着く先であるが、これは、いわば産業構造の変革も伴い、雇用をも視点に入れた高度化された農林水産業の軸である。
 日本の中では、九州や北陸なども、これにあたるが、食糧の安定供給度の強い国が、21世紀の持続的発展の中で生き残る。すなわち、生活の基盤の食糧に強く、さらには、エネルギーの安定確保にかなうところがいろいろなことを克服して発展していけると考えられる。
 いずれ、中国の元が、今よりも強くなった時に、先進諸外国の圧力の中で、日本にチャンスがまたきっと出てくる。そういう長期的な視点に立って、青森県が、県合体、東北連合の時代に、北海道との連携も強め、個性豊かな「自立力」を高めるための施策を次々と打ち出してきたということである。
 政府、経済界、日本原子力研究所、そして地元青森県・六ヶ所村が一体となり国を挙げてITERの誘致実現に取り組むというのもある意味、この流れにある。

 さらに、全国総合開発計画「二十一世紀の国土のグランドデザイン」を効果的に具体化、推進するために行う調査として、国土交通省の委託を受けて、「北東北交通ネットワーク形成・都市連携モデル調査」が実施されている。

 この調査では、東北新幹線新青森駅開業を展望し、市町村合併及び将来の北東北三県合体も視野に入れながら、青森市、盛岡市、秋田市を初めとする中核都市間を結ぶ交通ネットワーク、及び、生活圏の広域化を支える交通ネットワークについて検討するとともに、地域特性を踏まえた中核都市間の機能分担、相互補完のあり方、及び中核都市を軸とした都市と農山漁村のバランスのとれた生活圏の形成について検討することとしている。

 この調査結果が、基礎資料となり、北東北三県の持つ多様な資源、魅力を広域的に共有し、自立的な発展が可能となる地域づくりが促進される。
 果たして、岡山県のいう中四国州に、岡山県が中心になるという以外に、こうした、夢やビジョン、ロマンがあるであろうか。



(市町村合併と道州制)

 一方で、市町村合併が本格化する中で、県の役割、あるべき姿も変わらざるを得ず、都道府県という行政主体が広域行政を連携して進める段階からさらに一歩進んで、行政主体の広域性や総合性を求めて一体化する、北東北三県など都道府県「合体」の時代に入っていく、という視点もある。

 すなわち、市町村合併が本格化すれば、市町村の自立や規模拡大に伴い、市町村を包括する県の果たすべき役割、機能も変わっていかざるを得なくなり、21世紀は、地方分権をさらに前進させた地方主権という考えに立脚し、自主、自立の原則のもと、国や地方公共団体の役割の戦略的選択によって地域経営を担う県合体あるいは県連合の時代に入っていくというものである。

 要するに、市町村合併との絡みで、県合体、道州制は、論理的帰結である、というものである。概して、この視点は、目先の市町村合併がままならぬのに、県の広域連携や合体、ましてや、道州制の議論などできるか、という批判を生み易い。
 ちなみに、北海道のスタンスは、2001年の2月に、北海道は道州制検討懇話会が、「北海道発・分権型社会の展望」ということで、道州制についての報告書を出しているが、北海道は初めから広域的なまとまりがあるから、そのメリットがある。それをさらに生かして、本州との「合体」も視野に入れて検討するべきだと言っている。

 ただ、その前提に、市町村合併はなからやるべきだということでの検討はしない。今の市町村の姿をまず視野に入れて道州制に移行のメリットはどうかとかいう検討をするのだという立場をとっているようである。
 もちろん、広大な北海道における市町村の合併と一概に比較はできないと思うが。

 いずれにせよ、「知事サミット」を通じた論理的な帰結としての外的な要因と全国共通の市町村合併による論理的帰結としての県の広域連携、合体、道州制という内的な要因が青森県にはあるが、翻って岡山県はどうか。
 あるいは、市町村合併のサポートが不十分なまま、実践に基づく論理的帰結ではない「中四国州」という言葉が、一人歩きしてはいないだろうか。

 もとより、中四国州そのものを否定するものではないが、それを言うための実践が必要であると考える。



(北東北広域政策研究会)

 こうした状況の中、「北東北広域政策研究会」が、青森、岩手、秋田の北東北3県の企画の実務担当者により、北東北地域全体の将来像を検討するということで、昨年の4月に設置された(資料3−1参照)。

 3県の実務者が県の枠を越えて自由な立場で検討を行うということは、非常に意義深い。今年3月に、中間報告書を取りまとめ(3−2参照)、さらに今年度中には、最終報告書を取りまとめるという予定になっている。


 この研究会設立の背景(今ままで、鏤々書いてきたこと)の調査が目的であったので、中間報告書の内容を記す。

 @「北東北における広域連携の推進」として、今後の連携強化のあり方を検討
  する。
 A「これからの地方自治の姿」として、国と地方との役割分担、基礎自治体であ
  る市町村と広域自治体である都道府県の役割分担、さらに中央財源と財政
  調整のあり方を検討する。
 B「北東北にふさわしい自治の姿」ということで、北東北3県の合体を進めるな
   ど、北東北の一体化を推進する。
 C「一層の地方主権の実現に向けて」ということで、北海道や他の東北各県と
   の連携を進め、道州制への移行を目指す。

 少なくとも、国の「地方分権改革推進会議」及び「第27次地方制度調査会」の報告書の言葉の多用は、岡山の「21世紀の地方自治を考える懇談会」の報告書と変わらない。

 この研究会の中間報告では、市町村の合併特例法期限後5年から10年を目途に県合体、あるいは道州制へ移行を目指すというのがある。
 岩手県、秋田県知事は、2010年前後という発言をしているが、これは市町村合併が進んでいくとして、平成16年度、17年3月が合併特例法の期限であるから、そのあたりで、大筋市町村の姿というのは、どうなってくるかが見えてくるので、それと並行しながら、その市町村の役割が変わっていく中で、県の役割についてもあわせて検討しないといけないという認識であろう。



(問題点)

 以下、説明者の方との質問のやりとりから出てきた問題について列挙する。

 言うまでもなく、県民にとって、県同士の合併に、イメージがわかないことである。そもそも、津軽と南部に分かれている青森県全体を一県民が、どんな県だろうということ自体がよくわからない中で、連携をいろんな形でとっていけば、別に行政を一体しなくても済むという結論もあるだろう。

 県民投票という形で決めるのか、どういうプロセスを経るのかわからない。制度論に意識が伴うことが必要である。規模が大きくなればなるほど大切な住民自治であるが、それが確保されるのか。

 仮に、3県合体が進めば、その後に、南東北3県と一緒になった道州制といったものがねらいに入ってくるが、福島県は、北関東を見ている。東北で括られると福島県は反発するだろう。
 秋田ー山形は連携、岩手ー宮城は連携。しかし、山形、宮城、福島の南東北三県の連携はない。福島県は、FIT(福島、茨城、栃木)を目指している。東北州という動きにはなり難いのではないか。

 国からの具体的な動きがあるわけではない。総務省に協力の依頼はしているが、総務省は評価しているようではあるが、表面的な対応に終始。しかも、地方交付税ではなく、市町村ー県ー国の金の流れで、予算を取ってきたという意識のある国土交通省や農林水産省などの権限や事業を持っている省庁とのやりとりは困難である。

 北東北三県で「自立」できるのか、奥羽山脈を挟んだ水系で、環境政策の面では、一体的取組みができるが、産業面ではどうか。さらに、どういった財源の移譲があるのか、特に、中山間地、過疎の部分が自立していくためには、財政調整制度が必要であるが、ある意味これは「自立」と矛盾している。

 研究会は、システム論であり、県庁所在地、知事等がどうなるのかは別の先の議論。州都がどこかの話は、禁句。ちなみに、東北は、仙台に集中しているが、青森市から仙台までは330km。


(行政以外の反応)

 昨年の12月議会でも、改選前で、もかなり質問が出ている。ただ、政党としての対応はない。明確に反対はいないが、だからと言って賛成かも良く分からない。
 国会議員の考えは不明。

 経済界は、2002年9月経済同友会の事務局で懇談会。県内8JCのブロック協議会、商工会議所青年部は、まさに今年度から情報交換。

 従来の市町村の線引きでできている商工会のエリアがなくなるが、さすがに県の線引きの話まではいっていない。

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