【報告事項】  《第44回地方自治経営学会研究大会》

 「地方自治経営学会」は、1984年に設立されたマスコミや市民、企業等も参加する官・学・民共同の学術団体であり、本年4月に会長には、元志木市長の穂坂邦夫氏が就任。元島根県知事の恒松制治氏が、学会の名誉会長を勤める。平成2年秋には、日本学術会議の正式な登録団体として認められている。
 設立趣旨は、自治体内部の運営においても、また地域経営という面においても、これまでの行政執行という視点から大きく抜け出して、“経営”という視点からあらためてとらえ直すことが強く要請されている中、“効率性”“総合性”さらには現代的なシステム思考によって把握し直すというものである。そのために、学識者、自治体関係者、市民が相協力して、その問題をひろい上げ、分析するとともにその総合化を計り、将来社会の設計の、方向を探り出そうとしているとのことである。
 したがたって、各自治体現場から提起された問題を中心に研究を進め、単なる抽象論でなく、地域の実態の上に立った実証的、実践的かつ理論的なものとするということで、この2日間の研究大会も、極めて内容の濃いものであり、これだけ長い時間、黙って聴講し続けたことは、大学時代にも無い経験である。
 ちなみに、昭和63年7月には、第7回として、本四連絡橋開通記念特別シンポジュウムが、岡山市・岡山国際ホテル及び瀬戸大橋で、平成9年には、「21世紀・分権型社会へ地方はどう進めて行くか」と題して、岡山地区で、第24回大会が開催されている。
 第44回の春の研修大会にあたる当日は、参加希望者が期日前に定員をはるかに超えたそうで、参加者が700名を超えていた。岡山県議会からも数名の参加があったようであるが、特に並んで聴講したわけではない。

 大会は、『明日の地方の方向を問う 地方財政、地域再生、限界集落』を全体テーマとして開催されたが、著名な講師が目白押しで、パネルディスカッションも、事実上講義形式であり、レジュメのコピーのメモの状態を御覧頂いたらお分かりのように、膨大な量であり、かつ発言要旨が示されていたため、以下、各講師ごとに、意見を付して報告としたい。

《発表内容》
第1日〔5月22日(木)〕

テーマ@ パネルディスカッション(9:40〜12:00)
〈司会〉恒松 制治(地方自治経営学会名誉会長

〈パネリスト〉西川 一誠(福井県知事)

 福井県知事は、4月末に暫定税率の法律などとあわせて法案が通った「ふるさと納税」の発案者である。そもそも「ふるさと納税」を考えた背景は、2つである。
 @福井県は共働き率も高く、学力調査でも成績は秋田県とならんで日本一で、失業率も日本一、二を争うくらい低い、そうした地方で子どもを0歳から18歳まで一生懸命育てるが、その子供たちが3,000人ぐらい東京や大阪の大学に行くが、4年後、1,000人あまりしか福井に戻って来ない。その間の行政からの支援の総額は、一人あたり大体1,700万円かかるが、基本的な人的資源のライフサイクルバランスが崩れている。これを何とか是正しないといけないと思ったから。
 A大都市にいる人達も自分のふるさととのつながりを持ちたいという思いに応える。
岡山県においても、恐らくこの状況に大差は無いと思われる。地方分権のためには、権限・財源・人間の3ゲンが必要であるということは、しばしば言われるが、これらは、もともと地方に帰属すべきもの多くあり、特に、最も重要な人間については、多くの地方が、中央へ人材排出を行っているのが実際であろう。そうした意味では、本来は、「ふるさと恩返し税」とでもして、義務化しても良いぐらいかもしれない。

 戦後、地方団体が提案したものが、具体的に税制なり政策に普遍的な制度として実現できたのは、このふるさと納税が最初だという。タックスペイヤーの意識を具体化した実験的なモデル事業であり、そこには、納税者の選択が働く、納税者主権である。同時に自治体のサイドで考えると、福井県と他の県の間に新しいタイプの自治体競争が生まれるということも強調された。確かに、47都道府県で、岡山県が選択されるためには、それだけのアピールが必要である。ただ、岡山県出身者以外から、納税を受けるというのが、実際にどれほどあるのだろう?財政再生団体に転落して、憐れみで納税していただくのは、避けたいところである。

 また、寄付の文化がこれから重要でもあるということを強く言われた。政治献金を引き合いに出すつもりは無いが、少なくとも、NPOについては、こうした寄付文化が成熟しないとやっていけない。ただ、ふるさと納税は、行政へ寄付することであるするならば、正当な対価として行政サービスを受けるべきであるから、違うと思う。

 さらに、大都市と地方がどう助け合っていくか。大都市と地方のギャップを埋めて、日本の地方自治あるいは日本の国土政策を論ずる時代がこれからやってくる。地方自治は民主主義の学校と言われるが、日本でなかなかこれが実行されていない。一方で、道州制については、@東京や大阪への一極集中が進む、A道州間の格差が拡大する、B地域の個性が生かされない、C住民自治が低下するとして、基本的に消極的である。との立場であった。
道州制については、はっきりと懐疑的な意見というのをあまり聞いたことが無かったのであるが、富山、石川あるいは、京都の間で、埋没する懸念がある地域性もあるかもしれない。

 また、道路特定財源の問題に関し、ねじれ国会を想定して予算を組まなかったのか。新たな優先順位による道路の計画を見直さないのか。即、道路の事業を復活するのはいかがなものか。


〈パネリスト〉森 雅志(富山市長)

 県議会議員から、LRTの導入を公約に市長に当選された方であるが、高齢者社会においては公共交通を充実させることが重要だという強い信念を持っている。言葉や理屈をこねくり回すのが、お好きでないということで、強いリーダーシップのもと、ご自身が具体的に何を行ってきたかを話された。
 平成14年就任時は、財政調整基金が、20億円借り入れられていて、残り19億しか?なかったことから、大胆な行財政改革を行ってこられた。市民を信じて、声をかけ、説明して、6万6000人が清掃活動に参加。
 消費税を上げて、地方消費税分を上げる必要があること、道路財源が余っているわけではないことなど、率直な御意見を忌憚無く言われた。
 言葉に嘘が無く、分かりやすいというのは、市民にとっても、頼もしいのではないだろうか。


〈パネリスト〉坪井 ゆづる(朝日新聞編集委員)

 みの(もんた)ポリティクス批判には同感だがメディアの影響力は、新聞よりも、TVの方が大きいと言われる。記者の目から、地方自治体に対して、地方交付税についてなど、もっとなぜ国に対して物申さないのかという疑問を投げられた。特に、地方交付税の原資に、地方消費税が入っているのかなど、むしろ、地方自治体のふがいなさのほうを強調されたように思う。


〈パネリスト〉飯尾 潤(政策研究大学院大学教授)

 地方分権は錦の御旗だが、法人税のような不安定な財源であり、三位一体改革は大失政だとされる。国のすべきことまでやらされて仕分けも必要である。補助金要らないリストまで知事会が出し、省庁にごまかされた。むしろ、交付税が削ら、補助金の数は減らずに補助率が下げられたり、むしろ中央集権が進み、分権反対のムードさえ出てきた。
 こうした中、地方分権を実現するために、地方が本当に一体になるのか?地方同士、地方間で政治を行いながら進めていくものである、と強調された。


テーマA 講演“これからの政局の動向と地方自治、財政の行方”(13:00〜13:50)
〈講師〉福岡 政行(白?大学教授)

 まず、8点。@4月27日の山口補選についてA山梨県知事選挙についてB『さらば財務省』についてC平沼赳夫氏について D日本の無駄を排除していきたい運動について Eアメリカの時代は終わった
F消費税アップについてG限界集落について。敢えて申し上げれば、いわゆる時事ネタの部分もあり、その後も、別紙の発言要旨に沿う。


テーマB 講演“もったいないで拓く地域の未来”(14:00〜14:50)
〈講師〉嘉田 由紀子(滋賀県知事)

 埼玉県本庄市の農家のご出身であるが、関西の大学に行かれて、県職員として、研究所や博物館勤務をされた嘉田滋賀県知事のお話は、ないものねだりから地域の潜在力を引き出す方向への転換や環境問題について、琵琶湖を中心に話されたが、私には、いささか理念的であった。確かに、新幹線駅の廃止と琵琶湖というのも、理念的には確かに結びついているのだが。


テーマC 講演“地方公共団体財政健全化法は地方を変えるか”
〜行政・議会・住民〜(15:00〜15:50)
〈講師〉 穂坂 邦夫(地方自治経営学会会長・地方自立政策研究所理事長)

 氏の講演は、自らが議会と行政の長を務めた経験があられるだけに、極めて具体的で説得力がある。
特に、国にNOといえる仕組みになっていない破産法たる財政健全化法の成立を嘆かれる。
また、「分権とは、金のかかるシステムをかからないシステムに変えること」であり、「自己決定と自己責任と自己負担である」と端的に定義された。まさに我が意を得たりの感がある。
 特に、議会から慣例的に監査委員が出されているが、これからの監査委員の責務の重さについて言及された。私自身も、監査委員に就任する可能性があり、心してかかりたい。


テーマD 講演“地域間格差の拡大 税収は減少、地方交付税の大幅カット いま地方の自治体の置かれている状況分析と今後の方向”(16:00〜16:50) 〈講師〉石原 信雄(地方自治経営学会顧問・元内閣官房副長官)

 発言要旨参照。腱鞘炎である。
 いわば制度設計された立場から、懇切丁寧に経緯を含めてご説明頂いた。ただ、結論として、地方自治体の努力も限界に近づいている。課税自主権の見直しも必要であるとのことである。それでも、しかし、官僚が主導した国の制度の中で、地方分権という制度が決められるように聞こえてしまう。国会議員は、何をしているのだろうか?



第2日〔5月23日(金)〕

テーマE 講演“地方はどう立ち上がるか 財政の窮迫、地方分権停滞感の中で”(9:30〜10:30)
〈講師〉片山 善博(慶応大学教授・前鳥取県知事

 発言要旨参照。腱鞘炎である。
 特に、税源移譲について、要は、地方は国に騙されるなということである。国は、地方自治体に、地方債を発行させて、景気対策と称して、バブル期同様に、事業をやらせた。しかし、地方債の交付税の補填はしても、補助金や交付税を大幅に減らして、今度は取り締まる側にまわった。地方分権も、首長の権限が強くなっただけで、住民には、メリットは無い。根底には、「牧民観思想」があり、行政はプロが行うものというものがあるが、要は、基礎自治体の自由度を高める一方で、住民の意思を高めていくということである。そして、そういう中で、議会は何をしているんですか?という帰結になる。


☆事例報告 “24時間働く職員”“自治体議会の改革” (10:30〜12:00)
〈司会〉間島 正秀(法政大学教授)
〈報告〉根本 良一(前福島県矢祭町長)

 氏は、日本で最初に合併しない宣言をし、図書購入費予算をゼロにし、全国に図書の寄贈を呼びかけ40万冊を集め、住民ボランティアで、整理分類、図書館を立ち上げるなど、工夫を凝らした行政運営をされた。議員定数の削減や、給与削減、行政サポーター・ボランティアによる支援など、カリスマ性というよりも、人徳や情熱が伝わりやすい人口が7000人だからできたのか、それを市や県レベルに、直接導入できないにしても、考え方は大いに参考になった。要は、トップの気概である。


〈報告〉橋場 利勝(北海道栗山町議会議長)

 栗山町は全国初の「議会基本条例」を制定し、全国の自治体から視察が殺到しているということであるが、何度かお話を伺って、特別なことではなく、やはり、住民と直接対話を重ねるという、当たり前のことを当たる前にやられていると感じる。議会主催による一般会議で、議会が説明側に立つ事で、議会が議会、議員自らについて、何をしているのか、具体的には、請願・陳情にどのように対応したか、各議員の法案への態度等、説明が必要になるというのは、至極当然なことである。とりわけ、議員の質問に対する町長や町職員の反問権の付与は、言いっぱなしにならない緊張関係を生むであろう。
 ただ、行政規模が町だからできるのか、県ならばできないのか、という問題もあるが、基本は、住民の直接対話から、説明責任、結果責任を負いながら政策を議員も作っていくという、その姿勢である。


☆地方からの訴え “地方の危機―崩れて行く地方都市、地方農山村、迫る限界集落の危機”
〈司会〉山下 茂(明治大学公共政策専門職大学院ガバナンス研究科教授)(13:00〜16:00)
〈報告〉松島 貞治(長野県泰阜村村長)


 発言要旨参照。腱鞘炎である。
 田中元知事が住民票を映したことで有名な村だが、村長は、希望的観測に基づかない冷徹な現状分析と論理的帰結であった。少子化は進んでも、高齢化に移行する団塊の世代は外に出て、高齢者医療、介護問題は自然解消される。経費的な観点から、コンパクトシティが言われるが、村は村であって、このまま限界集落の自然死を認める。ということである。人間にとって、いわば故郷とは何か?何が幸せなのか?という根本命題をつきつけられた。


〈報告〉三浦 展(カルチャースタディーズ研究所主宰)

 「下流社会」の著者で、まちづくり三法の改正による大型店の規制強化に影響を与えた。
 日本中どこに行っても、同じ風景が広がるファスト風土に対して、ニューアーバニズム論の展開され、もともとコンパクトで鉄道主体で緑豊かで歩ける街、歴史ある街を再生しながら、持続可能性、バリアフリー、少子化などの新しい問題を解決すべく街を再編すべきであるとのことである。総論的には、全くその通りだと思う。


〈大野 晃〉(長野大教授[環境ツーリズム学科]・高畑大学名誉教授)

 65歳以上が半数で、社会的共同生活の維持が困難な「限界集落」という言葉を期せずして作られたとされる。集落の状態に即した対応が必要ということで、存続、準限界、限界と分けて、準限界集落を存続集落に再生することが、ポイントで、「予防」行政の必要性を訴えられた。具体的には、多目的共同施設等を通じて、コミュニケーションの場を作っていくということである。
 逆に言えば、どうあれ高齢者の方は、生涯をそこで暮らしていかれたい限界集落対策の有効打については、専門家の口からも、伺うことができなかった。

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