【報告事項】  《不登校の児童のための県立の専用施設の調査》

 まず、この調査を行った意図であるが、それは、この17年6月定例会で、私が本会議場で行った提言と深く関係する。

 私は、かねてから岡山県の負の遺産になりかねない規模高原都市について、有効な活用方法がないかと模索しているが、その提言は、私なりに考えた一方策であった。
 それは、吉備高原都市には、不登校の生徒が多く通う、「学校法人吉備高原学園の吉備高原学園高等学校」と「学校法人希望学園の吉備高原のびのび小学校・吉備高原希望中学校」があるが、新設される教育センターと日本に2つとないこの2つの学校をうまく結ぶことで、全国でも例のない不登校対策のセンター機能が吉備高原都市にでき、岡山県として全国に発信できるのではないかというものである。
 しかし、教育長答弁は、「不登校対策のセンター機能についてでございますが,県教育センターは,教員の研修機関でありますことから、教育相談部門も教員研修と教育相談員の研修を主としておりますが,県の不登校対策の中核的な機能もあわせ持っております。不登校の子供も受け入れている吉備高原のびのび小学校,希望中学校との連携につきましては,現在,国の指定を受けて両校が取り組んでいる研究に,県教育委員会からも運営指導委員会の委員として参加するなどの支援を行っております。お話の新教育センターとの今後の連携につきましては,どのようなことが可能なのか,研究してまいりたいと思います。 」と、必ずしも、前向きなものではなかった。

 今回、「兵庫県立但馬やまびこの郷」を訪ねたのは、全国唯一の県立の不登校対策の教育施設である同施設を、吉備高原に不登校対策のセンター機能を持たせるべきであるという提言の参考になると「吉備高原のびのび小学校・希望中学校」の関係の方から御紹介を頂いたからである。


 さて、まず当然のことではあるが、ホームページで、基礎知識を持ってお邪魔したが、(資料1)の「要覧」の内部が、基本的にホームページ掲載内容とほぼ同じであるため、それをもとにして、高橋洋子副所長から、午後1時から3時過ぎまで、2時間にわたりお話を伺った。
 提出書類に、ホームページの写しを提出したのは、そういった事情である。

 ちなみに、高橋副所長は、今年10周年を迎えた同施設に、設立準備段階からに関わられている唯一の方である。組織的には、所長を含めて非常勤が中心であるが、指導主事などは、教師達であるが、4年前から研修員制度がとられており、現在は、3人の若い教師が本人の希望で来ている。他に、大学生等がボランティアで加わる。また、調理師や看護師は、地域の方である。(資料1「組織」参照)

 まず、近いところに、不登校生徒児童のための学校として、私立生野学園(中学・高校)があり、高校生の不登校については、2年制(高校卒業資格は得られないが、通信教育を受ける)の県立神出学園が、神戸市西区にあるが、やまびこの郷は、小学生・中学生を対象にしている。

 同施設は、合併して朝来市山東町にあるものの、和田山にほど近く、兵庫県でも、自然環境には恵まれてこそいるものの、とても交通の要衝とは言えない場所にある。県行政的には、教育事務所の所管がそうであるように、但馬、西播磨、中播磨、北播磨、東播磨、丹波、阪神北、阪神南、神戸市、淡路と10ブロックに分かれるが、瀬戸内海と日本海の中間にある同地が、拠点性を持っているとは通常考えにくい。
 これは、ある私立大学(芦屋大学のセミナーハウスのようなもの)の施設をバブル期に県が勢いで購入してしまい、それを有効活用すべき要請があったのと、十数年前に、日本一の不登校児童生徒が多い県になった兵庫県がその対策を迫られていたのが、うまく合致したことによる。(同「概要」参照)

 そのため、施設は、体育館を新設しただけと言うが、かなり豪奢にも思え、温泉も出ており、紅葉も美しく、大規模事業評価にとても通るとは思えず、これから計画できるようなものではない。しかし、移築したいろりの館など、余裕があり、心のケアには適している。(同「施設」参照)ちなみに、部屋は、3人を基本にした相部屋で、生徒の希望で、勉強室もあり、いつでもできるプリント類や図書も置かれている。

 事業の基本は、4泊5日の短期宿泊・体験活動をするというもので、年間35回プログラムが組まれているが、これは、繰り返し参加も可能であり、近隣の県立南但馬自然学校での小学5年生の山の学校は、5泊6日に比べれば短いという。
 ちなみに、費用は、食事代とリネン代で、一人6000円という実費である。(同「事業」、「平成17年度受け入れ予定」、資料2参照)さらに、事業費そのものが、年間6000万円ということで、その性質からも、指定管理者云々の議論はないようであるが、儲けることにはならないだろう。費用対効果が実に測り難い。
 なお、子供達がここに至る経緯であるが、適応指導教室からの紹介もあれば、親がインターネットで見つける場合もあれば、学校からの紹介ということもある。不登校の理由というのも、学校がおもしろくない、先生が気に入らない、友人関係で躓いた、勉強が分からない・・等々であるが、親の不仲、離婚等も原因する。基本的には、義務教育なので、学校と親の連絡はある。ただ、ネグレクト的な不登校の場合どうなるのか、不安が残る。
 ここ10年の傾向として、昔は、明らかな神経症という子もいたが、現在は、教師の研修が進み、対応も進んでいるはずなのに、小学生でも、リストカット、拒食症・・と、問題が複雑化し、重症化している。
 実際の効果は、明るくなり前向きになるということであるが、学校に復帰できた子もいれば、保健室まで行けるようになった子もいるし、そうでない子もいる。退所から3ヶ月後に、アンケートを保護者と学校に対して行うが、本人に対しては、行わない。一番のネックは、やはり、勉強の遅れであり、遅れが分かったとしても、後は、家庭教師なり、塾なり、という、自助努力になってしまうことに、ある種の限界がありそうである。退所者が卒業して、数人が大学生になりボランティアで来てくれたそうである。
 なお、「自分探し」の似通った事業は、閑谷青少年センター等で、岡山県でも行われ、成果も上がっているが、年間を通じて、専門の教育施設で行うというのが特徴的である。ただ、岡山県は、そのために大学生ボランティア等を養成し、メニューには、保護者も参加させる?。この点、同施設は、保護者は、初日と最終日に来るだけである。

 また、利用は、原則、兵庫県在住者に限られる。税金の関係からも、そうであろうということである。(同「利用状況」参照)

 また、センター的な役割として、15年度から、文部科学省の委託事業で、「スクーリング・サポート・ネットワーク整備事業」が展開されている。(資料3参照)
 これは、適応指導教室等を中心にした不登校に関する中核的
機能を充実し、学校・家庭・関係機関が緊密に連携した地域ぐるみのサポートネットワークの整備を研究するというものである。
 特徴的な事は、民間施設、NPO等とも連携し、特に、いわゆる一部のフリースクールについても、ネットワークに加わっていることである。同施設は、県内に10ある教育事務所の所管に沿い、「地域スクーリング・サポート・センター」を繋ぐ「広域・スクーリング・サポート・センター」という位置付けになっている。(資料4参照) 特に、資料4のスクーリング・サポート・ネットワークの組織図を果たして我が県が描けるであろうか?6月定例会の教育長答弁が、不可能を物語るようである。
 国の事業委托があろうがなかろうが、行政の垣根を越えて、ネットワークを構築することがなぜできないのか。そのために、まず、県は、不登校や例えばフリースクールの実態の把握に積極的に乗り出すべきである。

 さらに、「地域やまびこ教室」として、県下各地で、不登校で悩む保護者と児童生徒へ直接支援を行っている。(資料5参照)
 もちろん、不登校担当教員(全県に30人配置)や適応教室指導者への研修を行っているし、保護者(『やまびこ』)や教員(『虹のかけ橋』)に向け、それぞれ広報誌を発刊している。(資料6参照)
 ここまで体系だった不登校対策を我が県では、行えていない。

 ただ、私は、こういったことよりも、調理員が地域のおばちゃんで、給食は、デザートに至るまで、一品一品、全て手作りであるといたような食に対する考え方を熱く語られることに感心した。
 ある意味、公立施設の良い意味での余裕で、体育館で、指導員やボランティア相手に、バレーボールをしている中学生達の笑顔は、非常に明るく、炬燵で話していた保護者の方々も、ほっとされている感じあった。
 岡山県で言えば、内尾センターのようなもので、多分、バブルが来ても、二度と作ることができない、効率だけでは語ることができない、思いのこもった壮大な夢のような施設であり、おそらく、開所10年のやまびこの郷に、他県が追随しないというより、できないのだろう。
 一方で、5日目のお別れ会では、指導員が必ず、5日間の中で、子ども達が頑張ったこと、素晴らしかった事を伝えるということで、やはり、認めてもらうこと、なによりも、自分が自分を肯定できることが、何よりも大切なのだと思う。
 家庭、学校、地域、友達・・・・自分が認められる場、自分を認められる場、それこそが、本当の「居場所」なのだと思う。
 加えて、「表現」の話になり、喜怒哀楽をうまく伝えることができないから、逆に、相手のメッセージがわからない、本当は、誰も責めていないのかもしれないのだが・・。 そんな時、やはり、親の問題なのだと思うが、親がきちんと子ども達に、「愛している、大切なんだ」と、表現ができているのか、なにか、どこかで、本当の対象は、子供達だけではないようにも思う。子供同様、親が親として、自己肯定観を持っていないかもしれない。こういった保護者に対するハード面だけでなく、ハート面の支援が、必要であろう。
 ともあれ、行政に思いがあるかないかに、子供の未来がかかっている。

 いずれにせよ、吉備北陵高校跡地問題というのもあるが、教育センターも移転する吉備高原都市を思う時、「やまびこの郷」のような事業やセンター機能を持つことは可能なのではないか、やはりそう思った。
 幸いにして豊かな自然と十分なハード面はあるのだから、あとは、システム的にソフト面を結ぶことが肝要である。本気の思いでできることである。
 引き続き、議会の場で、提言を続けていく。

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