【報告事項】
《「犯罪・テロとの闘いージュリアーニ前NY市長が語る」》

 今回の派遣では、読売新聞社130周年記念事業の一環の「犯罪テロとの闘い」というシンポジウムを聴講した。
 わざわざ大阪に出向いたのは、我々が、増え続ける落書きに対して地域住民の方々と協動で調査かつ消去するために結成した「落書き調査隊」(私は、副隊長である。)の岡崎久弥隊長に対して、本シンポジウムのご案内を頂戴したのであるが、主催の新聞社に特に便宜を図って頂き、同行させて頂いたものである。

 ちなみに、「落書き調査隊」は、岡山県の俗に言う「落書き防止条例」の施行に伴い、私の方から働きかけて結成を呼びかけたといういうが、端緒である。
 また、大阪本社の若い記者が、岡山局在任中に、「落書き調査隊」の活動に大きな理解を示してくれていたということがあり、ジュリアーノ前NY市長の来阪を伝えてくれたのである。

 いうまでもなく、「割れ窓理論」を実践したジュリアーノ前NY市長は、ある意味、治安対策における世界のカリスマ的存在であり、「割れ窓理論」は、「落書き調査隊」としても、現在も落書き一斉消去を行う際の理論的な根拠になっている。
 ちなみに、「割れ窓理論」とは、破れた窓を一つ放置すれば、建物全体の荒廃につながるのと同様に、軽い犯罪の取締りを怠ると重大犯罪を助長し、きちんと処罰しないと他の窓も割ってもかまわいということになる。ゆえに、軽微なうちから絶つことが重要であるという理論である。同氏の造語ではんくて、社会学的な理論を実践に移されたのが、同氏である。
 我々の経験からしても、落書きに関してもまさに、「割れ窓理論」で、小さなものを許せば、コミュニティーの防犯能力の無さを見透かされ、あっというまに、あたり一面落書きだらけになる。それに対して、地域の総力で、一斉消去し、コミュニティーの自助能力を高め、あるいは、誇示し、それ以上の落書きを絶対阻止するということが肝要なのある。


 今回の基調講演で、同氏は、「犯罪の増加を断固阻止する決意が重要」と強調されたが、講演の際に語られた氏の実績を要約するとすれば、要は、1994年1月から2期8年間の市長時代に、NYの治安の再生、犯罪激減に成果を上げられたということである。
 特に、犯罪統計を活用して警察官を犯罪の多い場所に投入し、前述の「破れ窓理論」に基づく軽微な犯罪対策の強化策として、初めて体系的に取り入れた。

 また、同氏は、任期終盤の2001年9月11日、世界貿易センターなどを襲った米国同時テロ事件では、陣頭指揮。同年12月に退任し、翌2月には、テロ後のNYの復興に果たした功績で、エリザベス女王から名誉ナイトの爵位が与えられたというのは、あまりにも有名である。


 より具体的には、こういうことである。1983年から約6年間に、検察官として、大物マフィアなども含む4152件、99%の有罪判決を勝ち取った実績を彼は持っているが、当時のNYは、氏によれば、映画「タクシードライバー」に象徴されるような犯罪都市のイメージで、90年には、殺人事件が一日平均6件、年間で、2245件発生。そこで、氏は、95年に31700人だった警察官を2000年には、4万人規模に増員して、街頭活動を強化。万引きや無賃乗車、落書きなどを徹底して取り締まった。NYの主要7犯罪の認知件数は、同氏就任直前の93年の60万件から、任期最後の2001年には、26万4000件まで減少。殺人、強盗、婦女暴行、傷害といった暴力的犯罪も、15万4000件から6万8000円と半分以下に、特に殺人は、2000件から650件と3分の1になり、今も減少傾向が続いている。
 また、落書きした少年には、罰則も課し、原状回復をさせたという。実は、私もこれを提言したことがあるが、効果絶大とはいえ、日本の法体系では、こういうことは難しいそうである。

 ところで、彼は、コンピューターを活用した犯罪統計の管理システム(コムスタット)で、犯罪情報を毎日集計。いつ、どこで、どんな犯罪が発生しているかのパターンを分析し、重点パトロール地域を決めて捜査を効率化した。
 注目すべきは、警察組織も抜本的に改革。交通警察局と住宅警察局を市警本部に統合し、逆に、市内に、76ヶ所ある分署長の権限を拡大。その際、分署長は、週一度の市警本部での会議で、コムスタットに基づき、犯罪が増えれば原因と対策の説明を求められ、業績が上がらなければ、解任された。


 ところで、消防を含めて、実際に市長の権限がどの程度であるのかは不明である。少なくとも、日本の場合、地方公共団体の首長が、別組織であり、ここまでのリーダーシップが発揮できる状況ではなかろう。

 ただ、こういった点で、岡山県警がどれだけ、犯罪統計を活用できているか、また、各署に権限が委譲できているかは疑問である。今年度より、事故多発地域をホームページで公開することになってはいるけれども、犯罪を未然に防ぐという意味でデータを活用するなら、交通巡視員も、昼よりも、夜に、大量投入すべきではないか。

 いわゆる「ねずみとり」にせよ、軽微な駐車禁止違反についても、できるところから取り締まると言う方向は理解するけれども、本来は、さらなる巨悪に対して、常に、機動隊投入も意識しながら徹底的に対抗して頂きたいものである。
 一頃よりも、爆音暴走族は、静かになったが、相変わらず、桃太郎大通りには、出没するわけであり、特に、以前から、西川で、東署、西署の所管が分かれるのが問題ではないかということを申し上げているが、中心市街地の防犯に、特化した体制が必要ではないか。また、空き交番対策を退職OBの方が、自転車盗や道案内で、常駐して下さるのもありがたいが、真夜中に、田町交番に集結して、他の交番が、空というのは、おかしくないか。

 ちなみに、私は、6月定例会で、交番の道路案内を作るべきだと提言したい。「柳川交番直進100m」というようなもので、距離そのものよりも、近くに交番があるということを示すものである。先日、兵庫県を訪ねた時に、国道沿いにそういう標識があり、もう少しこまめにつければ、治安対策に資するように感じたのである。


 ところで、氏は、テロ問題では、米国同時テロ後の世界が危険になったのではなく、テロの脅威を意識している今の方が安全と強調。闘いを恐れない気構えがテロに対する勝利に結びつくとした。ただこのあたりは、その後、日本人3人が拘束されており、微妙である。


 ちなみに、紹介された日本の治安状況は、昨年の刑法犯認知件数で、279万件で、8年ぶりの減少で、前年比2.2%減。警察庁は、「治安回復元年」とした。2002年までは、7年連続で最悪記録を更新し続け、80年代後半の2倍、犯罪の多様化に追いつけず、検挙率も、80年代後半に、60%台だったものが、20%前後に低迷。
 しかし、昨年、治安悪化に歯止めが掛かったとされるのは、「捜査最優先」から、「犯罪抑止」を主眼にする対策に切り替えた発想の転換があったからとされる。この際、NY市警の「破れ窓理論」も、参考になっているとのことである。パトロールなど街頭活動が強化され、ひったくりや自動販売機荒らしなど10%近く減り、犯罪件数全体の減少につながった。特に、街頭活動強化を目指し、全国の警官を2002年度から2003年度にかけて、8500人増員。さらに、今年度から3年間で、1万人増やすことも決まっている。
 一方で、殺人や強盗などの重要犯罪中、住宅に押し入る進入強盗などは増え、凶悪化が進み、そこには、犯罪目的の来日外国人グループや暴力団などのプロ犯罪組織の関与しているケースが多い。治安回復を軌道に乗せるためには、街頭犯罪対策に加えて、効果的な組織犯罪対策が重要になっている。


 一方、説明によれば、大阪府については、全国より1年早い2001年に最悪の事態。人口860万人の大阪府内の刑法犯認知件数32万7000件は、人口が約380万人多い東京を抜き、全国ワースト1。ひったくり、オートバイ盗、車上狙いなど街頭犯罪の多発が原因。検挙率も、東京が、25.7%に対して、11.5%。
 こうした事態に、府警は、2002年1月に、「街頭犯罪総合対策本部」を設置し、機動隊まで投入して、街頭活動を強化した。さらに、4月には、「安全なまちづくり条例」を制定し、自治体や府民上げての治安回復への取組みに乗り出した。
 その結果、2002年度の刑法犯認知件数は、30万400件に減少し、ワーストは、1年で返上。昨年度は、28万5300件にまで減り、検挙率もやや上向きに転じた。しかし、凶悪犯や子供を狙った事件は逆に増加。人口10万人あたりの犯罪発生率は、3236件で、あいかわらず都道府県ワースト1である。
 岡山も大阪ほどではないが、似たり寄ったりの状況にある。特に、検挙率の低下は、大問題である。


 第二部のパネルディスカッションでは、元関西経済同友会代表幹事・津田和明氏がコーディネーター。
 元警察庁長官・国松孝次氏は、NYを参考に日本独自の治安回復策を構築すべき。小さな犯罪が凶悪事件へとエスカレートする。少年非行をいかに食い止めるかが大切。
 太田房江大阪府知事は、破れ窓理論の大阪的実践として地域との連携を重視したい。全国で引ったくりなどの街頭犯罪の7割が少年。府内で多発する引ったくりの被害の9割が女性であり、女性の連携と言うことを強く訴えられた。
 弁護士として少年更生に取り組んでいる大平光代・大阪市助役は、違法ビラを剥がす活動を例に、市民の意識を高めてこそ安全な街が実現できる。若者は、何をやっても自由という権利意識が強く、幼い頃から規範意識を育てることが重要であると述べられた。


 コメンテーターのジュリ−アーノ氏は、正しい方向性と評価され、実現には、体制を整えて取り組むことが重要であるとくくられた。日本の状況は捨てたてたものではないというニュアンスではあったが、果たしてどうか。
 警察の取り組みについては、好意的なもの発言が多かったし、警察官の増員をすべきであるという政策的な意図もあるようにも感じられた。

 しかし、正直に書いて、日本の状況は、決して安閑としておられる状況にはないと思う。構造的な問題として、家族や社会のあり方、なによりも、大人の姿が、青少年に投影されており、末期的な状況であるとすら思える。
 私は、犯罪者を検挙し刑罰を与えるだけでなく、様々な施策を講じることが必要であるが、とりわけ、地域コミュニティが連携して立ち上がることが何より大切であると考える。確かに類い希なるリーダーがいれば別であるが、そうであっても、それを支えたのは、住民の連帯があってのことであろう。
 とりわけ、警察との関係について、我々が、警察との連携を強めることが何より重要である。そのためには、プライバシーの問題もあるが、警察の情報公開が重要である。少なくとも、人当たりが良くて親しみやすい愛される警察ということは、情報公開や警察への信頼と必ずしも論理的な連関はないと思う。
 ただ、必ずしも、今回のシンポジウムでは、その部分は、討論されたとは言えない。

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