2003年7月21日(振替休・月)【韓国の歴史教科書】

 本日は、「教科書を検証する歴史研究者シンポジウム2003ー韓国の新しい教科書との対話ー」という、世間で言う自由主義史観ではないと思われる会合に出席させて頂きました。


 思い起こせば、2年前、全国の中学校歴史・公民教科書、とりわけ扶桑社(「新しい歴史教科書をつくる会」)の教科書の採択について、世間は大騒ぎでした。

 私は、個人的には、歴史は、後から行う解釈であるとも思うので、様々な観点から説明することこそが重要であり、最後にどういう立場を取るのかについては、個人の判断に委ねる以外にないようにも思います。

 大切なことは、良いことも悪いことも、様々な解釈があることも、事実として全部伝えること、そして、未来に対して、この国がどこに向かうべきなのか、自分自身が何を成すべきなのかを考える術を教えることだと思います。
 願わくば、先人への限りない敬意と感謝の念をもって。

 ただしかし、これは、主体的に判断できる大学生なら可能である歴史認識の一般論ということで、少なくとも、義務教育の教科書となれば、日本の歴史にまずは誇りを持つことができる、家族や地域の大切さをきっちりと認識できるものに繋がるものであることは、最低限必要なことだと思います。

 それにしても、我々の時代も、いつか教科書で、せいぜい2ページ程度で語られるとすれば、なんとも、儚いものです。


 ところで、お隣の韓国では、「21世紀の世界化情報化の時代を主導する自律的かつ創意的な韓国人の育成」を目指す「第7次教育課程(日本で言う学習指導要領)」により、高等学校で使用される歴史教科書には、国定の「国史」教科書に加えて、深化選択課目として、今年度から検定制度に基づいて発行された「韓国近現代史」教科書が、使われるようになりました。

 4社から発行された「検定」教科書は、従来の国定教科書とは全く異なったものになっています。

 もちろん、言うまでもなく、中学校歴史教科書検定に絡んだ、日韓の歴史的摩擦が外交問題にまで発展。その結果、竹島(韓国では「独島」)問題や、従軍慰安婦(韓国では「軍隊慰安婦」)問題が、加筆され、歴史教科書問題は、1982年に逆戻りしたという評価すらあります。

 対日関係記述においては、民族主義史観は強まっているということですが、他国の教科書に言及できる立場にはないということでしょうか、予想されたこととは言え、あまりこうした事実は、聞きませんでした。
 どうあれ、韓国なら、そう書くしかないでしょう。


 しかし、一方で、ワールドカップ・サッカーの共同開催以後の両国の関係の好転も相俟って、当選後来日したノ・ムヒョン大統領は、いわゆる戦後賠償問題に言及することはありませんでした。

 もちろん、北朝鮮拉致問題、核開発疑惑を巡って、利害関係が一致していることもあって、有事関連三法も、国際問題化することなく、通過。一昔前なら考えられません。

 特に、北朝鮮については、米中朝に、日韓を加えた多国間協議実現の方向に進んでいるため、麻生発言も、大問題にならないほど、明らかに新しい局面を迎えていると言えると思います。


 そうした流れの中で、韓国の新教科書も、対日記述は厳しくとも、韓国人が、近現代の世界の中で発揮してきた力量を主体的、批判的に理解しようとしているところに、大きな特徴があるようです。

 植民地化と近代化についても、「支配と抵抗」以外のアプローチも模索するという姿勢は、客観的、地球的、人類史的規模で、自国の歴史を見つめ、これからの自国と自分の役割を考えるという、本来の歴史教育の姿であると思います。

 その点、日本の歴史教育は、どうでしょうか。ちゃんと、誇りを持って過去と未来が繋がっているでしょうか。


 一方で、ジェンダー的観点から、歴史を再評価するアプローチ(歴史解釈を男性中心観点からジェンダー観点から読み替える)というのもあるようですが、過去を贖罪せよということもさることながら、現在をどう見つめ、未来をどう構築するのか、そこをいかに語るかが、歴史のポイントだと思います。


 ところで、思えば、韓国の三国時代から日韓の歴史があるわけで、白村江の戦いや、いわゆる壬申倭乱(秀吉の朝鮮出兵)も、半島に仕掛けたということです。

 秀吉は、韓国全土の国宝級の建造物を焼き尽くし、優秀な技能者を連れ去った大悪人であり、迎え撃った李将軍は、100ウォンに刻まれる大英雄である、しかし、日本が鎖国していた時代も、半島を通して、世界を見ていました。

 いつもそばにいたのです。一番近い「世界」です。愛憎は、昨日今日の話ではありません。

 とりわけ、南北分断という現実に対しては、日本は、歴史を踏まえた上で、果たすべき責務があると思います。アメリカの片棒を担いでいれば良いという立場ではありません。


 私は、韓国との関係は、他に代え難い大切なパートナーとして、日本の生命線であると思います。

Copyright (c) 2003 SHINJI SATO Inc. All rights reserved.satoshin.jp