2003年5月6日(火) 【福祉移送特区について】

 本日、全国初の構造改革特区のひとつとして、4月21日に認定された「福祉移送特区」についての説明会が、県庁でありました。(「その1174」【福祉移送特区とNPO】参照。)

 オブザーバー出席させて頂き、200人以上の大盛況だったので、NPOの方の関心が極めて高いのかと思っていたのですが、市町村や、社協、シルバー人材センターの方が、主だったような気もします。

 しかも、そこには、県主導の取組みに、ある種の戸惑いがあるようにも感じられました。

 個人的には、そういうこともあってか、もうひとつ、この福祉移送特区について、一概に良い取組みであると言いきれません。マスコミは、鳴り物入りで紹介するでしょうが、私は、順風満帆に行くものと断言できません。



 そもそも、小泉総理提唱の構造改革特区は、規制緩和できるメニューを各省庁が、まず掲げ、地方自治体が、それに手を挙げていくという仕組みです。
 国主導の規制緩和なのです。

 さらに、あくまで、構造改革特区は、実証実験の様相も呈しており、効果が認められれば、全国に波及させると言うものです。したがって、非常に冷たい見方をすれば、今回の福祉移送特区は、岡山県下をテストベットにするということであり、魁だけに、非常にリスキーであることは事実です。もっと言えば、他地域の事例を待つこともできました。


 そもそも、モノ、情報、心のバリアフリーを目指す「福祉のまちづくり条例」を掲げる本県が、「交通バリアフリー法」と相俟って、昨年度から、タクシー事業者、NPO、ボランティアの個性を活かした福祉車両のネットワークづくりを目指す「福祉移送コーディネート事業」を展開していましたが、まさに、構造改革特区として、「福祉移送特区」に収斂されたわけです。

 端的なイメージとしては、介護保険導入前から、移送サービスをしていた社会福祉法人、NPO、ボランティアが、(白タクとして認められていなかった)ガソリン代等の対価を得ることができ、また、利用者も、選択肢が増え、気兼ねなく、サービスが受けられるようになる、というものです。


 換言すれば、「福祉移送特区」とは、「『NPOや社会福祉法人』が、『移動に制約のある人のために』、『福祉車両を使用』して、『ボランティア輸送を行う場合』に、『低廉な料金を受け取れる』よう、道路運送法(第80条1項)に基づく、『自家用自動車』の『有償運送許可申請を行える』ようにするもの」です。

 基本的な考えは、「収益事業ではなく」、「対象を特定して行う」というもので、『ボランティア輸送』は、「生活の質と範囲を広げる手助け」として、「営利を目的としない」という点で、タクシー事業と対概念となっています。


 このことから、介護保険(今年度新しく項目とされた通院等のための乗車または降車の介助)や支援費制度の報酬等の請求はできません。
 しかし、移送の対価は、タクシー運賃の半額以下で自由(距離換算か、時間換算かは、未定)。

 たちまちは、普通第二種免許取得者が運転者である必要があります。(8月以降に県が実施する運転・介助実技講習を終了することでも可)

 使用車両は、車椅子やストレッチャーのままで乗降できる「福祉車両」に限られます。

 また、市町村長の「協力依頼書」をもって、地方振興局ごとにある「有償運送運営協議会」の承認を得て、岡山運輸支局に「申請」、「許可」を貰うという手続きが必要になります。

 さらに、移送の対象は、「移動制約者」(要介護認定を受けている人、身体障害者手帳を受けている人、あるいは両方受けていないが、いずれの場合も、外出時に、車椅子の使用か、歩行介助が必要な方)および「その介助者・付添人」であり、あらかじめ、「利用者登録」し、特定しておく必要があります。
 そして、顧客は、足で稼がねばなりません。



 こうした結果、実際に、顧客を自ら開拓し、福祉車両を有償運送できるのは、当然、福祉車両を持ち、特定できる移送対象者、端的には施設を持つ社会福祉法人や、市町村から委託を受けてきた社会福祉協議会やシルバー人材センターに限られるのではないか。
 しかも、その場合、利用者は、タクシー半額以下の有償になります。利用者にとって、これでメリットがあるのでしょうか。
 果たして、施設を持つ介護保険の指定事業者は、これをいかに「うまく」使うでしょうか。

 すなわち、経済波及効果などとは言うけれど、本当に、NPOやボランティアが、公益ないしは収益事業として関わっていくことができるのか。
 介護保険同様、ある意味で、「おいしいところ」は、大手に取られて、厳しいところばかりをNPOやボランティアが関わって行かざるを得なくなるのではないか。
 また、体力のないNPOが潰れてしまいます。

 一方で、福祉タクシーを運営しようとしたタクシー業界にしてみれば、採算が取れる可能性のある都市部においても、半値以下のライバルに叩かれて、撤退以外に選択肢は、ないようにすら思えます。これのどこが、規制緩和の効果と言えるのでしょうか。



 6月からの事業であり、これから詰めていくということであり、私も勉強が不十分でありますが、なにか非常にメリットもありますが、逆に、それ以上のデメリットやリスクもあるように感じます。
 冷静に見ていきたいと思います。

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